第2章 こころとからだについて 2

  相手の動き表情から相手のこころを読み、相手の意図が読み取るようになるためには、まず相手のこころに同化する必要があります。母親と赤ちゃんの例で示したように母親は自分のこころを赤ちゃんのこころに成りきって、なにがあって泣いているのかを探しているのです。けっして自分のこころ=大人のこころで泣いている赤ちゃんがどうして泣いているのかを分析し探っているのではないのです。
  相手のこころを読み取ろうと思えば、相手のこころに同化しなければ読み取れません。自分の利己心、自意識、自我心、自己中心(すべて同じ意味ですが)のこころでは相手のこころを読み取れません。まずは相手の立場にたち、相手の考えに同化するように努めるのです。そうすれば、だんだんと相手が何を考えているのかわかってきます。
  卓球という特殊な環境では、相手が何を考え、何をしてくるのかは限られてきます。ましてや、よく知っている人なら、相手の技も体力も予備知識は十分です。よく知らない選手、相手でも、やることはピン球をラケットで打つだけですから、それに限定して読み取ればよく、そんなに難しくはないはずです。子育てよりはずっと易しいはずです。
私はこのことに気づき、相手の意図をまず読み取ろうとしましたが、意図を読み取る前に打球が迫ってきます。どの様にして相手の意図を読み取ればよいかとずっと考えて来ました。どうもうまく行きません。そして、相手のこころを読み取ろうとせず、まず相手のこころに同化しようと考えました。それでも、はじめは同化できず、相手の動きについていくことができませんでした。
  そこで、相手が打つときに「シンクロ」と呪文を唱えることにしました。「シンクロ」とはシンクロナイズ・スイミングのシンクロです。相手のこころに同期するようにこころに言い聞かせる呪文です。
  何度も「シンクロ」と呪文を唱えながら、まず相手のこころに同化するように努め、同化しようとするこころで相手の表情、動きを見つめているうちに、相手は何を意図しているのか、ぼんやりと見えるようになってきました。相手の動き=こころに同化することにより、相手の動きから相手のこころが読めるということを確信いたしました。
  相手の意図、判断がわかれば、よりはっきりと球筋が見えるようになります。球筋が見えるようになれば、球筋に前もって体を移動させておけばよいのです。まず移動させておいて、それに対応して、わが身を受けの体制にもっていけばよいのです。そうすれば相手の打球は吸い込まれるように我がラケットに向かってきます。
  球筋に沿って受けの体制にもっていくということは、自然に初歩的、無意識的に「ため」の形になっているのです。そう「はじめ」の章で紹介した「ため」なのです。
この「ため」を意識的、積極的に取り入れると、相手の意図が読めて、球筋が見えて、体を球筋に沿って移動し、相手の打球に対して反撃の体制がととのうことになります。相手のこころに同化して、相手の意図を読み取れば、相手の打球に対しての対処が見えてきます。
  「ため」はためている瞬間に反撃の意図、すなわち戦術、戦略を決定し、相手の動きを読み取って、相手の弱いところ、苦手なところ、態勢の整っていないところにむけて、コース、スピード、回転を決めて、エネルギーをため、瞬発的にそのエネルギーを相手に開放します。「ため」があれば自分の最も理想的なフォームで、最も力強く、最も正確で、しかも余裕を持って攻撃でき、レシーブもできるのです。(続く)

2017年03月30日